新・小杉散歩
2020.06.25
川崎市平和館と平和公園を訪ねて
そう遠くない昔、戦時中のこの場所には軍需工場がありました。それまではのどかな田園が広がっていたこの地域に、次々に工場が建てられ、多くの人がそこで戦争のために働き、そして空襲による戦争の犠牲者にもなったのです。
そして敗戦。敗戦とともに接収された後は米軍の印刷所として使われました。ベトナム戦争の際に撒かれたビラなどは、この場所で印刷されていたそうです。
そのさらに後、日本に返還された際に、この土地は平和に貢献するために使うべきだという考えのもと、住吉高校と平和公園、そしてこの平和館が公園の一角として建設されたのです。平和館の開館日は1992(平成4)年4月15日(川崎大空襲の日)でした。
「そういう場所に平和館があるということはとても意義があることだと思います」
館長の言葉が強く重く胸に響きます。
平和館は「市民の平和に対する理解を深めるとともに、平和を希求する市民相互の交流及び平和活動を推進し、もって平和都市の創造と恒久平和の実現に寄与するために設置する。」(川崎市平和館条例第1条)のもとに、設置運営されています。
戦争に使われた場所ではありますが、ここでは「非平和」を「戦争」だけに限定してはいません。戦争はもちろん非平和ですが、人種差別や国家による弾圧、貧困や飢餓、暴力なども非平和と捉え、過去から現在の非平和についての資料、また、より平和な未来に向けて何がなされるべきかを考えるための資料が、多岐に渡って展示されています。
館内1階は企画展や催し物に使われる屋内広場や会議室に加え、防空壕の体験コーナーがあります。
館内2階の常設展示コーナーは「導入:平和を考える」「川崎と戦争」「日本と戦争」「兵器と戦争」「戦争と人間」「国家による弾圧」「武力紛争とメディア」「現代の紛争」「さまざまな暴力」「平和への取り組み」の10コーナーに分かれ、テーマに沿った貴重な写真や映像当時の物品や模型などが、分かりやすい解説とともに展示されています。
なによりも目を見張るのは、タッチパネルやヘッドホン、仕掛け付きの模型など、つい手を伸ばしてしまう設備が多用されていることです。なるほどこれだと文字の理解力がない子供たちでも興味を持って見学することができるでしょう。また、限られたスペースに多くのものを展示することができています。
これらの中には、この館で制作され、ここでしか閲覧できないものも多くあるそうで、その数は、すべて観て聴いて、というととても1日では足りないほどです。音声ガイドも無料で貸し出されていて、これには日本語だけでなく韓国・朝鮮語、中国語、英語でのものも用意されています。また、説明員の方のガイドとともに館をめぐることができる団体での見学申し込みも随時受け付けているそうです。
川崎市民の平和への強い願いがこの充実を可能にしたのでしょう。
現在、1階の屋内広場では「川崎大空襲記録展」が展示されていました。
この展示は、毎年(例年は3月〜5月、今年は緊急事態宣言による休館があったため7月19日までに延長)開催されているそうです。この特別展では空襲前後の写真や軍服などに加え、平和館がある場所の様子の移り変わりを見ることができる空撮写真なども展示されています。
館ではこの特別展の他にも、平和をテーマにした企画展やイベントを定期不定期ともに開催し、さらには中原区の区民コンサートに場所を提供するなど、包括的な平和への理解を促進し、啓発の場として、また市民の平和交流の場として幅広く利用されることを目指してさまざまな試みがなされています。
情勢が違えば、平和のとらえ方や感じ方も変わります。切り口によって受け取り方が違うこともあるでしょう。気軽に何度も訪れることで、自分が社会の平和のためにできることが見えてくるのではないでしょうか。
興味深い資料すべてに目を通すことはやはりこの日だけでは叶わず、後ろ髪を引かれつつ館を出ると、眩しい陽光にかがやく新緑と青空のもと鳥がさえずり、いやな臭いなどしない爽やかな初夏の風がそよぐ平和公園。たゆまぬ努力で得た、決して「あたりまえ」ではない平和な光景が広がります。
平和公園を散歩される際にはぜひ平和館にも立ち寄ってみてください。きっと陽光に輝く空と緑がいつにも増して眩しく感じられるはずです。
川崎市中原区木月住吉町33-1※館内の撮影には許可が必要です。詳しくは平和館へお問い合わせください。